2014年3月16日日曜日

詰将棋における透明駒の説明

※2014/3/19、読者の方のご指摘により例題1を修正しました。修正前の図面は、「攻め方:なし。受方:12歩、31歩。持駒:金桂。(協力詰3手、0+1)」
 作意は「32金 -X 23桂まで3手」のところ「14桂 21玉 22金まで3手」で余詰。
※2014/3/21、読者の方のご指摘により例題3を修正しました。変更点は受方21角→21馬です。 同年3/23、例題3を修正前の図面へ戻しました。 同年3/29、解説を加筆しました。

1.序文
 透明駒とは若島正氏が考案された、特殊な駒のことです。その名の通り透明な駒なので、盤上のどこに存在するのか、それとも持駒として存在しているのかも分かりません。また、この駒は見ることができないので、駒を動かしたとしても盤上には全く変化が無い場合もあります。以下に、詰将棋における透明駒のルールを記します。

2.ルール説明
「透明駒」
①その名の通り透明であり、位置および種類(またはそのいずれか)が判明していない駒です。
②透明駒は、通常使用される40枚の将棋の駒の内のいずれかである。
③透明駒が動いた時や透明駒を打った時は、どの透明駒がどこに動いたのか、または打たれたのかは分かりません。記譜上では「-X」と表記します。つまり、単に一手指されたということだけしか主張できません。
④透明駒が駒取りを行った時は、取られた駒が消失するため、透明駒が移動した場所は判明します。記譜上では「+13」「+35」のように表記します。前者は13の地点の通常駒を透明駒で取った、後者は35の地点の通常駒を透明駒で取ったという意味です。この場合は位置は判明しますが、種類が完全に判明しなければ、駒の透明状態は保たれます。
⑤透明駒を取る時は、それが「取り」であることが証明できる場合に限ります。「取り」ではない可能性が存在する場合は「取り」を主張することはできません。
⑥-A 透明駒を使用した詰将棋における「王手」とは、それが通常の王手であることが証明できる場合に限ります。
⑥-B 透明駒を使用した詰将棋における「詰み」とは、それが通常の詰みであることが証明できる場合に限ります。また、詰め上がり図に透明駒が存在する場合の「詰み」とは、その局面における透明駒の全ての可能性が「詰み」であると証明できる場合に限ります。
⑦初形配置および手順は全て合法的であり、「先手の着手は王手である可能性がある限り全て王手!」であるとします。
⑧透明駒は、その位置と種類が確定した後は、通常の駒として扱います。
⑨攻め方および受方の透明駒の所有枚数は次のように表記します。「0+1」「3+2」。前者は攻め方0枚受方1枚、後者は攻め方3枚受方2枚の透明駒が使用されている事を表しています。
⑩攻め方および受方のどちらかが2枚以上の透明駒を所持していて、透明駒を「移動させるor打つ」などの着手を行った場合、着手する透明駒を自由に指定することはできません。
⑪透明駒は「成、不成」を主張することはできず、棋譜上でも「成、不成」は表記しません。
⑫可能性の限定された透明駒を取る場合、取った後もその可能性の限定は継承されます。つまり、相手の透明駒を取った時、その透明駒の種類が「金or銀」のいずれかであると確定している場合は、取られた後も、「金or銀」のままであり、その他の駒へ勝手に変換することはできないということです。また、「飛or龍」のように「成、不成」が判明していない透明駒を取った場合は、通常の駒(この場合は飛)として扱います。

 フェアリー詰将棋における新ルールや、未知のフェアリー駒を扱う場合は、その説明を文章だけで理解しようとすると難易度が高くなるが、実際に盤と駒を使って説明されるとすんなり理解できるということが往々にしてあります。ここまで読んでくださった方は、ルールだけでなく、ぜひ例題も問いてみてください。

3.例題
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例題1
協力詰3手、0+1

 攻め方0枚、受方1枚の透明駒が使用されています。受方には必ず1枚は玉が存在しなければならないので、後手の透明駒の種類は「玉」に確定します。

作意 14桂 21玉 22銀まで3手
 
 初手に14桂と着手することで、ルール⑦より透明駒(玉)の位置が22の地点に確定します。ルール⑧より、透明駒の位置と種類が確定したので、2手目以降は透明駒(玉)を通常の駒として扱う事ができるようになるので、以下は一般的な協力詰と同様の手順で詰みになります。 
 初手から「34桂 -X 22銀まで3手」のような手順は、3手目を指し終えた段階で、透明駒(玉)が「21、31、13、33」のどの地点に存在しているのか定まっていないため逃れとなります。
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例題2
協力詰3手、0+1


 受方1枚の透明駒が使用されていますが、前問の「透明駒=玉」とは違って「角、金、銀、桂、香、歩(およびこれらの成駒)」のいずれかです。飛は盤上に2枚存在しているため、透明駒にはなり得ません。
 初手53桂不成や42角成とすれば詰んでいるように見えますが、2手目に「+53」「+42」と駒を取られてしまい3手では詰みません。また、53桂不成の時に「51玉」「52玉」のような受けも考えられます。前者は33or42、後者は22or32or42のいずれかの地点に透明駒が存在していると主張する訳です。
 
作意 51角成 +51 53桂不成まで3手

 作意手順では、初手から51角成、「+51」と角を捨てて、ルール④より透明駒を51の地点に固定します。このとき、51地点に存在する透明駒が「飛or龍or香or桂」である可能性は失われます(成香or成桂である可能性はあります)。51地点の駒を受方の香or桂で取ることはできませんし、飛は盤上に二枚存在しています。51地点に存在する透明駒が飛or龍or香ではないと判明した時点で、受方の駒が53地点へ利いていないということが証明されますので、3手目53桂不成で詰みになります。
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例題3
協力詰3手、1+1

 今回の例題は、攻め方1枚、受方1枚の透明駒が使用されています。まずは作意手順を見てみましょう。

作意 33馬 -X -Xまで3手

 初手33馬は通常の王手ですが、この着手が王手になるということは、逆説的に22地点に透明駒が存在しないということが言えます。そして、2手目「-X」は、受方が透明駒を「動かしたor打った」のですが、これは馬での王手を遮るために22地点へ着手をしたということです。3手目「-X」は、今度は攻め方の透明駒の着手ですが、ルール⑦よりこの着手は王手にならなければなりません。玉は周囲3マスを透明駒1枚を含む自分の駒で囲まれていますので、3手目は23地点への桂の着手だと確定して詰みとなります。
[2014/3/29追記:3手目は23地点への桂の着手に確定するというようなことはなく、正しくは「23地点への桂の着手、または22地点の受方の透明駒を取る着手のいずれか」です。透明駒を透明駒で取ったとしても、盤上に全く変化はありませんので、攻め方の着手がどちらの着手であっても詰みになります。棋譜表記は「33馬 -X -X」で正しいです。]

 2手目、22合駒(透明駒以外の駒)とした場合は、「初手から33馬 22合駒 -X(桂) +23」と進んで、3手目に着手した桂を受方の透明駒に取られてしまいます。3手目「-X(桂)」で受方の透明駒を取っていたと解釈すれば?という意見があるかもしれません。しかし、3手目までの手順では受方の透明駒を「取った」ことは証明できません(ルール⑤より)ので、この手順は逃れとなります。
 仮に、受方21角→21香と変更した場合は、「初手から-X 22合駒 -Xまで3手で詰み」というような手順が成立してしまいます。この手順からは、攻め方は2度の透明駒の着手をしていて、かつ後手の駒を透明駒で取るような着手が存在していないということが分かります。つまり、初手の着手は「角or馬」で33以遠から王手をした。3手目の着手は、後手の透明駒1枚を初手で取っていて、その透明駒を23地点へ打ったと分かります。ルール⑦より3手目の駒の種類は桂であるという事が判明し詰みとなります。

 例題2や例題3のように、透明駒の位置や種類が部分的にしか判明しなかったり、ある透明駒についての情報が一切判明せずに「詰み」となる作品もありますが、これも透明駒の特徴の一つです。

 今までは、例題とその説明だけでしたが、透明駒に関する個人的な感想を最後に記します。まず、受方の透明駒というのは非常に「強い駒」という印象です。合法的な範囲ならば、あらゆる駒になりうる可能性があり、盤上のどの地点にも存在する可能性があるからです。攻め方は、受方に透明駒が存在する場合、なんとかして透明駒の正体を部分的にまたは完全に突き止めるか、何らかの方法で透明駒の影響力の及ばないような局面を作るなどの方法をとって、ある程度まで透明駒の守備を弱めなければ後手玉を詰ますことは難しいという感じがします。
 一方で、攻め方の透明駒については、非常に「扱い難い駒」という印象です。駒取りを行わない場合は、攻め方が着手をしたいという地点を自由に指定する事もできませんし、「この透明駒が通常駒なら簡単に詰むのに、透明駒の性質のために逃れ順が出現してしまい詰まし難くなってしまう」という事も起こり得るからです。
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4.おわりに

 この記事は、私の理解している範囲で、出来る限り透明駒の魅力を伝えたいという意図で執筆にあたりましたが、勉強不足な点も多々あるかと思いますので、その点はコメント欄にてご指摘して下さい。また、掲載されている例題については、あくまで自作のものですが、「Problem Paradise」で取り上げられていた例題をそのまま詰将棋に移植しただけの例題も含まれますので、その点はご了承下さい。
 ルール②にあたる部分を、「透明駒は通常の駒40枚のいずれでもなく、それに新に加わった駒である(TypeB)」とするルール設定もあるようですが本記事では扱っていません。
 最後に、この記事を書くにあたって引用および参照したサイトを明記します。これらのサイトの執筆者様、そして何よりこの記事を読んでくださった読者の方へ、最大限の感謝と敬意を表明します。

引用および参照したサイト様(敬称略)

Problem Paradise(The 9th Japanese Sake Tourney)
Togetter(透明駒)
Web Fairy Paradise(第68号)

10 件のコメント:

  1. 非常にわかりやすい説明になっていて、多くの人に見てもらいたいですね。
    「透明人間の逆襲」出題稿は、案外Twitterとかで担当者にお願いすればデータで見せてくれそうですが…。

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    1. >>ikz26さん
      コメントありがとうございます。筆者としても、この記事を多くの人に見てもらうこと。ひいては、透明駒を「面白い」と感じてくれる人が一人でも増えれば、それに勝る喜びはありません。

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  2. 透明人間の逆襲を担当したものですが、下書きなら残っていますのでお送りしましょうか? なおコメントの仕組みがよくわからず、重複していた場合はご容赦ください。

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  3. 突然失礼します。
    例題1なのですが、初手13桂や14桂で余詰んでいます。

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    1. >>度会希音さん
      ご指摘ありがとうございます。例第1番の図面と本文を修正しました。

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  4. 遅コメ失礼します。
    例題3ですが、3手目「+22」でも詰んでいませんか?
    また、余詰を修正いただく場合でも、修正前の図は残しておいた方が良いかもしれません。

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    1. >>さん
      ご指摘ありがとうございます。例題3を修正しました。
      修正前の図面についてですが、記事の文頭に追記するという形で対応させて下さい。

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  5. 例題3についてです。21角の図でも余詰はないと思います。むしろ21馬の図は不詰と思います。
    駒取りについて整理させてください。普通駒を透明駒で取るときのみ、+〇〇の表記が可能です。透明駒を透明駒で取る手はそのような表記ができません。逆にただの-Xという表記でも、盤上を移動した手である余地がある場合には、透明駒を取った手である可能性が常にあります(もちろん普通駒の移動によっても同様です)。これは盤上の変化が視覚的に観察できるかどうか、という一点にかかっています。普通駒が取られたことは見えますが、透明駒が取られようとそれは見えないので、逆に言えば取りがあったかなかったかについてはその手だけでは判断できないのです。
    さて、例題3ですが、2手目の駒は22にあることはわかるものの、その種類は不明なので、規定より依然として透明駒です(可視化の条件は位置と種類が同時に確定していること)。+22のような表記は、普通駒を透明駒で取るときにのみ有効なので、場所が確定しているからと言って透明駒を取る際の表記として用いることはできません。
    逆に、3手目の-Xは+22のような表記でこそないものの、23桂のような手であった可能性に加えて22の透明駒を取った手である可能性があります(これが持ち駒の着手でしかありえないなど、駒取りではないことを証明できる場合にはその限りではありません)。その際、21が馬になっていると詰みになりません。したがって詰みの条件「透明駒の取りうるすべての状態において詰み」を満たさないため、修正後の図は不詰と思います。
    以上、ご検討ください。

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  6. なお、前コメントの通り、最終手が透明駒を取った手である可能性は創作する上で少なからずつきまといます。そこで、詰上がりに持ち駒の透明駒余りは許そうという議論になっています。この辺は明文化されていないところではありますが。

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    1. >>會場健大さん
      會場さんの仰っている事はよく分かります。まとめると、例題3において3手目「-X」を指し終えた段階で

      ①3手目の着手「-X」は23地点への桂打ちである。
      ②3手目の着手「-X」は22地点に存在する受方の透明駒を「攻め方の透明駒(金、銀、龍、およびこれらに類する駒)」で駒取りをした着手である。

      という2つの可能性があり、どちらであるかは判明していない。このため、例題3(21角)では①、②どちらも詰みである。しかし、例題3(21馬)では①の可能性は詰みになるが、②の可能性が逃れのため不詰。ただし、例題3(21角)の②の可能性については、最終手を指し終えた段階で、攻め方の持駒に透明駒が1枚残るので駒余りになる。という事だと思います。ここまでは正鵠を射た意見であり、私も同じ見解です。例題3の対処については、一旦は修正前の図面(21角)に戻しますが、最終手の透明駒余りのルールの趨勢によっては、例題3自体が不完全作になる可能性もあると思いますので、その場合は適宜対応します。

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